渋さ知らズのライブへ。


何を血迷ったか、こともあろうにエイベックスからメジャーデビューを果たしてしまった、無頼派集団こと渋さ知らズ(ちなみに吉田美奈子もエイベックス)。放蕩を尽くした過剰さと引き換えに貧困にあえいでおり、ヨーロッパツアーや蝦夷ロックに出向く際に必要な旅費が捻出できず、自費で出向いたメンバーがいたとか何とか涙ぐましい噂を耳にしたことがあります。むろん真偽の程は知りませんが、さもありなんといった話。そのヨーロッパツアーが好評らしく、誤った日本文化の伝播に一役買っているそうで、ありがた迷惑にして頼もしい限りであります。渋さ知らズ=日本の伝統音楽、と信じている人も世界にいるに違いありません。ご愁傷様です。だがしかし、例えメジャー進出を果たそうとも、唯一無比のバカタレ音楽集団の辞書に自重や自省の文字があろうはずもなく、そこに現れたのはやはり現実世界を抹殺した、めくるめくアングラ一大絵巻でありました。ここまでくれば壮大な趣味ですわな。素晴らしすぎて涙が出る。


ブースカピースカと音を鳴らしながら管楽器隊が2階席から現れて会場を練り歩き、続いてステージ上にワラワラと演奏者が集まりはじめます。30人を超えるメンバーが所狭しとステージ上にひしめきあう光景は、何度観ても途方もなくムダ、もとい目まいがするほど壮観です。指示があるまでオブジェと見紛うほど微動だにしなくて逆に笑える御大・渋谷毅や、ドラマー・芳垣安洋の姿がなかったような気もしますが、それもメンバー不定渋さ知らズらしくて良きかな。漁師の格好をした赤フンのあんちゃんが病院送りとなっているらしく今回は欠場。血管がぶち切れんばかりのハイテンションで観客を煽りたおす姿がひとつの名物でもあるだけに残念ではありましたが、冒頭の映像でそれをネタに転じてちゃっかりと笑いを取ってみせる、ただでは転ばぬ食えなさは相変わらず。そんでもって、訳のわからない全身白塗りの奇怪な動きをするダンサー達と、生臭い女の香りをプンプン漂わせた踊り子が、お立ち台と花道を行ったり来たり。毎度のこととはいえ、この悪趣味極まるいかがわしさに見惚れずにはいられません。徹頭徹尾ナンセンス。ジャズ、ロック、歌謡曲、ジプシー、演劇など様々な要素を呑み込んでいて、〜風と形容することがこれほど難しい集団もそうはいますまい。


冒頭から大迫力のアンサンブルを展開。すぐに上述したダンサーが加わって、開始早々に理性が吹き飛びワヤクチャの大盛り上がり。無頼漢を地で行く不破大輔の指示で次々と曲調やテンポを変えながら一気呵成に駆け抜けます。細かいことは知るかとばかりに暴走すれすれに吹き散らかす管楽器隊と、進めやドンドンとばかりに性急なリズムの洪水を前にして、誰が踊らずにいられようか。祭りじゃ祭りじゃ。極論すれば、大か小しか存在しない、ある意味で明瞭、ある意味で大雑把なアンサンブルではあるけれど、これがめっぽう凄くて瞬時に心を持っていかれます。果たして、見渡す限りムダだらけ。ムダを排したストイックな姿勢とは間逆の、否、実は地続きでもあるストイックなムダの快楽ここにあり。
わりと満遍なく各楽器を取り上げていた印象を受けますが、通常だとソロ演奏のときには、他は邪魔にならないように努めるものです。しかし、渋さ知らズはさに非ず。誰が何をしていようとお構いなし、むしろこれぞ我の生きる道とばかりにあちらこちらでピーピーと音を鳴らしはじめます。他人を差し置いて目立とうとする、ベテランのなのに大人げない片山広明のお下品なテナーも咆哮。それは彼だけではありません。揃いも揃ってフリーキーな即興で煽りに煽る、目立ってなんぼの泥仕合。手数を最優先した発狂ピアノソロやオナニーギターソロなど、やりたい放題でカッコいい。そうしてグチャグチャになったところで、ふいにアンサンブルに戻して今度はダイナミクスの妙を披露。単純にして強烈なユニゾンが生み出すうねりを伴って熱狂の渦へ。


一転して中盤は落ち着いた曲調で聴かせます。石川啄木の詞を用いたらしい『ひこーき』の清廉な響きにうっとり。そうこうする内に、ゲストヴォーカルにカルメン・マキが招かれます。全身黒ずくめの衣装。今もなお精力的に活動しているのは知っており、一度は観てみたいと思っていただけに嬉しい。クセのある大集団を一人で一手に引き受けてしまう圧倒的な存在感に、低音・高音ともに伸びのある力強い歌声。場の空気を一変させ、観る者をグッと引き寄せずにはいられないような魅力に溢れています。カッコいい。それに伴い、委細構わず奔放に吹き散らかしていた集団が、突如としてバックバンドに変貌。不破大輔の指揮の下で、押し引き自在の端整な演奏に切り替えます。官能的なソプラノサックスの音色と彼女の貫禄ある歌声が重なりあう瞬間の素晴らしさよ。各楽器が歌い手に合わせて一点に収束し、そのグワァーと大波が押し寄せるが如き様子をシューゲイザーのそれに例えている文章を見かけましたが、なるほど、言いえて妙だと思います。歌い手にとっても至福の瞬間だったのではないでしょうか。渋さ知らずズの新たな一面を発見したような気がしました。


3曲歌い終えたカルメン・マキを送り出して以降、再びラストスパートをかけてノンストップで突っ走ります。ダンサーも全員集合、ついでにこれまた訳のわからないノボリまで登場し、さらに意味不明な光景に。あとは完全燃焼すべく、大合唱、狂喜乱舞、阿鼻叫喚。音の洪水がもたらす高揚感に頬を染め、誰彼かまわず我を忘れて押し合いへし合い。一歩間違えば只のいいかげんでしかない綱渡りの混沌とした世界。はみだすばかりではなく、随所に見え隠れする秩序があるからこそ一際輝いて映るわけです。などと、ごちゃごちゃ考えるのは無粋というもので、無心に踊ればいいのです。とんでもないライブバンドだなあと、呆けた頭で改めて思いました。この例えようもないアホくささと凄さは、言葉は勿論のこと、CDでも足りず、やはりライブでなければ伝わらないものでしょう。アクが強いので好き嫌い別れるに違いありませんし、ゆったりと堪能したいという方にはお勧めできませんが、ハロプロのライブ好きにこそ一度体験してもらいたい代物です。なぜか打ってつけの合いの手や振り付けもありますので、複数でヲタ芸をすれば喜ばれること請け合いです。さあさあ。そんなこんなで、素晴らしいライブでした。また足を運びます。今度は野外で観てみたいなあ。