SAKEROCK+TUCKER+キセルのライブへ。


キセル
名前だけは知っていましたが、曲を聴くのもライブを観るのもはじめてです。ギターとベースの兄弟デュオというのも、このとき知りました。簡素な打ち込みに、音数を抑えて空間を生かした演奏だったでしょうか。浮遊感のある茫洋としているようで流麗なメロディーと、二人の透明で晴朗な歌声が素晴らしい。気に入った。


◇TUCKER
ターンテーブルとエレクトーンを中心とした演奏。やたらめったらテンションが高く、言葉こそ発さないものの、要所で言語化不能の雄たけびを上げて会場を沸かせます。ギター・ベース・ドラムも演奏し、そのフレーズをそれぞれループさせながら一人で全てを賄いつつ一人で盛り上げるという、まさに何でもござれの自作自演で、縦横無尽にステージを飛び跳ねます。壊れるのではないかと心配になるほど激烈にエレクトーンを弾きたおし、挙句は鍵盤上で倒立すらはじめる始末。ひじ打ちどころの話ではありません。エレクトーン上で火を噴いて炎を上げてみせたり、自らの歯でアームを器用に操ってDJプレイをはじめてみせたりと随所に小ネタを用意しており、息もつかせぬ発狂パフォーマンスが繰り広げられます。それでいてサザンソウル風のシャウトを選曲に織り交ぜていたようにわりと古めかしく、一貫性があるのかないのか。やんややんやと疾風怒濤の如く会場を爆笑に包んだ後、何食わぬ顔で悠然と去っていったのでした。めちゃめちゃおもろい。ぜひとも間近で観たいなあ。


SAKEROCK
彼らを認識したのは、DCPRGのライブでゲスト出演していたのに出くわしたときだったでしょうか。SAKEROCKって誰やねん状態ではじめて観たときから、ヘンテコで個性的なことをやってそうだと感じてはいましたが、改めて面白いバンドだなあと。中途半端にも満たないくせに要らぬ知識や先入観につい凝り固まりがちな自分ですから、全てが気に入るわけではないにしても、素直に耳を傾けられる場は大事にしようと考るようになった次第です。別に難しく考えることでもありませんが。


フロントマンことハマケンの名物MCはややスベり気味に思えましたが、目を放すと何をしでかすかわからないような、それでいてどこか所在なさげな、一家に一匹(失礼)と宣伝したくもなる不可思議な存在感は健在。ホワイトバンドをネタにして客席に放り投げたり、こそっとボノボのモノマネをしたり、ぽってりとした身体にそぐわぬアクロバティックな、でもどこか鈍重な身のこなしを披露したりと快調でありました。言葉に詰まったハマケンに助け舟を出すかに見せておきながら、非情に煽り立てるメンバーとのやり取りも堂に入ったもので笑えます。
性質上、縦ノリ一発な曲がありませんから、なかなか大乱舞とはいきませんし、笑いに関してはハマケンのネタの成否にかかってくることもあって意外に観客がおとなしかった印象も受けましたが、却って心が浮き立つような軽妙な演奏やメロディの良さに気付かされます。トロンボーンの音色ゆえか、のどかな親しみやすさがあって単純でラフなように聴こえるものの、実は複雑なアレンジの曲が多いのではないでしょうか。比較的コンパクトな曲が多く、聴きようによっては風通しのいいスカスカな音でありながら、一方でどこか歪であるようにも思えます。コードが変なのでしょうか、耳を素通りせずに良い意味で引っかかりがあります。リズム隊が相当しっかりしてそうですし、リーダー兼ギタリスト・星野源の高速カッティングもカッコいい。彼の不適な笑みがなければはじまらんのです。
『穴を掘る』から『信濃街』への流れが素晴らしい。夕暮れ時に隣近所の台所から漂ってくる味噌汁の香りの如き素朴さと、レイドバックしたかのような国籍不明の異国情緒が混在しており、一言では表せそうもない風情があってホロリときてしまいます。『OLD OLD YORK』での一人コントも不気味で秀逸。今ツアーで意固地に演奏してきたという、ファミコンの『MOTHER』のサウンドである『Eight Melodies』のカバーも披露。聴き覚えのあるメロディが懐かしい。
全国行脚している熱心なファンも多くいたに違いありませんが、かといって信者が無意味に息巻いている様子もなく、後方で観ていた限りではオープンな雰囲気でした。濃いファンで固めれば、それはそれで心地よい空間が生まれるのかもしれません。しかし、今度は閉鎖的となってしまうでしょうから、これ大事だと思います。そもそもSAKEROCKの開放的な音楽に馴染みませんし。ステキなライブでした。