DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENのライブを観に行ってきました。ムダに長い。


フルメンバーの14人がステージに揃うやいなや、おもむろに訳のわからんコーランがCD−Jで流され、次いで意外にも『構造Ⅴ』で演奏がはじまります。コンダクターとして身振り手振りで忙しなくメンバーにキューを送り続ける菊地成孔。噛み合わないリズムを矯正するために率先して5拍子を刻みなおす場面があった、とは隣人の会話を盗み聞きしただけですが、取りようによっては錯綜するリズム自体が全て少しずつずれているようなものでしょうから、どの曲がそうであったのかすら自分にはよくわかりません。各々が意のままに奏でているように見えながら、そうした指示に呼吸を合わせて次々と風景を変えていきます。変拍子が同時に交錯する複雑怪奇なリズムを刻みながら、ひとつの有機体のように膨張・収縮を繰り返す様がこのバンドの真骨頂でありましょう。気持ち悪くも快感であるポリリズムが炸裂する『構造Ⅰ』や『構造Ⅲ』が続いた後、『STAIN'ALIVE』の重々しいリズムで一休み。そして『Hey Joe』で息を吹き返し、本編ラストの『CIRCLE/LINE〜HARD CORE PEACE』で頂点に。執拗に反復される7拍子の不穏なベースライン。耳をつんざかんばかりの不協和音を奏でるキーボードや、パーカッションとタブラの即興演奏を挿みつつ、進んでいるのか戻っているのか判然としない終着点の見えぬミニマルな展開が数分に渡って繰り広げられます。「HARD CORE PEACE」の箇所で、光が差し込むかのような恍惚が訪れると、待ってましたとばかりに嬌声・奇声が飛び交います。お約束なれど、いいものはいい。


錚々たるメンバーにあって「バンドの4番打者」と紹介された津上研太のソプラノサックスが冴え渡ります。薄紙を一枚はさんでいるというか、半歩ほど退いた地点にいながらも異彩を放っているというか、一風変わったフレーズを多く用いる人のような気がします。ゴセッキーはテナーのほかにソプラニーノ(?)も披露。ムーグっぽい音を繰り出したかと思うと、やにわにヴォコーダーに切り替えるなど好き放題振舞っていた坪口昌恭は、後半、ステージ前方に嬉々と躍り出て小室哲哉ばりにショルダーキーボードを弾きたおし、挙句はジミヘンのように歯で演奏をはじめ観客の笑いを誘います。してやったりの表情の内にヤンチャな芸人魂を見た気がします。誰も止めないでしょうから、今後さらにエスカレートしていきそう。比較的シンプルなリズムを密かに刻んでいるであろう高井康生と、妙ちくりんなソロを弾くジェイスン・シャルトンや、もはや大御所に近いだろうに良い意味でそれっぽさが希薄な芳垣安洋と藤井信雄の、ルーズにして精緻なリズムの共演など見所が満載なのは大所帯バンドゆえ。考えてみれば不思議なものです。とりわけ、バンドの中央後方に位置する栗原正己の野太いベースがカッコいい。グルーブの要のように思えて、分割しまくっている(らしい)拍子を見失った際にはとりあえずその音に耳を傾けてはみるものの、その都度、わかったようなわからぬような気分になってしまいます。全員がリズム楽器だというMCどおり、おそらくそこに正誤などないのでしょう。曲にもよるものの、そもそも別々のリズムが同時に鳴っている場合が多いわけですし。その辺りをきっちり把握できている観客も少なからずいると思いますが、周囲を見渡すと皆てんでばらばらなのが面白い。自信満々に踊っている人もいれば、自分のように合いそうなリズムを探してはまごつく人もあり。それもまた一興。音響がさほどでもなかったのか、それとも自分の立ち位置の問題なのかわかりませんが、各楽器の音色が団子状に聴こえてしまう場面が全体を通して幾度かあり、特にホーン隊のソロが埋もれがちだったような気がしないでもなし。別にいいけど。


アンコールで菊地成孔が口を開きます。このライブが生中継されていたらしく、いつもの如く饒舌にとはいかぬまでも、放送禁止用語をちらつかせて確信的に毒をまぶしつつ、モロッコに滞在したことやバンドの結成から初ライブにかけての思い出などを語ってました。恒例のチークタイム(?)では、チャーリー・パーカーの演奏がCD-Jで流され、流れるようにして否が応にも終焉を感じさせる涼しげでメロウな『Mirror Balls』へ。これまたお約束の展開ではありますが、盛り上げからチルアウトまで、全てお手の物といった感じで言うことはございません。ミラーボールがなかったのは残念。
判で捺したかのように「カオス」と評されているDCPRGのライブ。おそらく菊地がそう言っているからなのでしょうが詳しいことは知りません。演奏が達者なために苦もないように映って毎度のように驚かされるためか、以前も述べたように、定型から自然に零れ落ちる揺らぎを含めて隅々まで制御された印象を受けるというのが自分の偽らざる実感です。偉そうにケチをつけているわけではありません。ダンスミュージックとして成立させているところこそが素晴らしいと思うわけです。昨年観に行ったリキッドルームの演奏はその最たるものだったと記憶しています。その一方で、今回のライブは荒々しさと申しますか、定型からはみ出す部分が以前よりも増しており、少しばかり異なる表情をのぞかせていたような気もします。どごがどうというのはわかりません、さてどんなもんでしょう。自分の気分的なものかもしれないものの、それもまたカッコいい。懐が深いのでしょうね、すげえバンド。もっと収拾がつかないくらいドロドロになってみるのも面白そうです。そんなわけで、また足を運びます。感謝。