先日、UAのライブに行ってきました。


昨年の『SUN』を引っさげたライブは、唯一無二の個性を放つドラマーの外山明とUAが、共に肩を寄せ合うかのように見せかけて、その実、けんか腰で別々に明後日の方向に突っ走るかのような、訳のわからない緊張感に満ちた素晴らしいライブでした。フリージャズやら民族音楽やらが混成したような内容だったでしょうか。
今回は、最近のエレクトロニカ寄りの傾向から察せられるとおり、雰囲気が一変します。ムーグ(モーグ?)&スティールパンマリンバ×2&ヴィヴラフォン&パーカッション、チェロ、チューバ、アコースティックギター、エレクトリックギター&ダクソフォンという、ドラムとベースを排除した編成でした。高良久美子大野由美子、関島岳朗、内橋和久などの錚々たるメンツが一堂に介し、前回の喧騒とは打って変わって、ミニマルな世界が粛々と構築されていきます。潮の満ち引きを想起させ、会場全体をゆっくりと浸していくかのような、それでいて一本も二本も筋の通った別種の緊張感に満ちた演奏でした。大仰な音はありません。音数も決して多くありません。空間を埋めるためではなく、むしろ空間を生成するために音を奏でるといった美しくも不思議な趣きでありました。デロデロと技術を垂れ流して詰め込むだけが音楽ではないということなのでしょう。知らんけど。


UAが歌を紡ぎ、曲に新たな命を吹き込んでいきます。前回とは一転して、猛々しさや禍々しさはありません。室内楽団のようでありながら変にかしこまった素振りのない表情豊かな楽器の音色群と、それらが醸し出す芳醇な間合いに歌い手が溶け込みます。柔らかで強く、軽やかなれど確かな重みを持った、深みのある成熟した歌声が耳朶を打ちます。隅々までコントロールされているのか、最後まで淀むことはありません。過度に聴衆に寄り添うことなく歌声で語ってみせるその姿はまさに孤高(MCはすっとぼけてますが)。演出めいたものは全くありません、その必要がどこにあるでしょうか。圧巻の一言です。
変態ギタリスト・内橋和久がプロデュースしている『Breathe』からの選曲が多く、このアルバム、実は掴み所がなくて自分はよくわからずにいるのですが、しかし苦に思う瞬間はなく、あっけないくらいに時間が過ぎていきます。一方で、昨今では珍しくポップな曲が多く収録されている、いわば裏ベスト的な内容の最新作『Nephews』からの選曲は一切ありませんでした。映画の主題歌や本人出演のCM曲ですら完全に黙殺されていたのはなぜでしょうか。期待していただけに少し残念だったのですが、そのぶん、自分の好きな『ミルクティ』が初めて聴けましたので感激です。アレンジが異なるのはもはや当然のこと、キー自体も上げていたような気がします。また、メロディーを崩していたので幾分ドラマチックになっており、淡々としている原曲とはまた違った良さがありました。アンコールでは、内橋和久とのデュオで奄美島唄。弾きすぎないギターが実に意味ありげ、歌が素晴らしかったのは言うまでもありません。いつもの如く自分は辺境の地に流されてはいたのですが(3階席って)、すみだトリフォニーホールの抜群の音響の良さも手伝ってか、十分すぎるほどに堪能できました。また足を運ぼうと思います。感謝。