aigenjiのライブに行ってきました。


ROVOのツインドラムを中心としたVINCENT ATMICUSのライブでsaigenjiに偶然お目にかかっているので、これで2度目となります。そのときはどこのどなたか存じ上げず、曖昧な記憶によると確か3、4人の編成だったと思うのですが、今回はギター&ヴォーカル、ベース、ドラム、パーカッション、キーボード、サックス&フルート、トランペット&フリューゲルホーンの7人編成となっていました。2年間ライブを共にしており、いまや各メンバーの足の裏まで知り尽くしているとか。ウソつけ。SOIL& “PIMP” SESSIONSやカセットコンロズのメンバーが参加しており、前者に関しては実際にライブに足を運んだことがあります。相変わらず手数の多さが尋常でなく、見た目も音も派手なので何度も声援が飛んでいました。あとはドラムのスネアの音が特徴的だったでしょうか。金属的な鋭い音ではなく、ニュアンスのある柔らかめの音だったような気がします。各楽器のソロスペースもたっぷり取られており、ドラムとパーカッションのやりとりや、島裕介のトランペットなど見どころ・聴きどころ共に満載。はじめは涼しい顔をしていた島裕介が最後の方になると、口を大きく開いて熱唱していたのもご愛嬌。
息が合いつつも、いちバックバンドに収まりきらぬ一癖ある演奏にあって、saigenjiの歌声は埋没するどころか、むしろ進むにつれて光沢を増していき、ほとばしる情熱で牽引していきます。ラテンフレイバーに満ちた、とあまり知らぬ自分が口にすれば陳腐にすぎるのかもしれませんが、土臭さを宿した野性味と豪放なまでの陽気さ、そして吹き抜ける一陣の涼風のような優しさが同居する人間味にあふれ表情豊かな歌声が感動的で、毎度のことながら改めて人の歌声の素晴らしさを思い知ったのでした。アップテンポは言うに及ばず、水晶の欠片のようなピアノの音色が滋味深いバラード曲『acalanto』なぞも絶品です。多くの曲で冒頭部分のアレンジを変更してスキャットではじめ、たびたびフラメンコギター(?)を放り出し、観客を煽りながらバンドと共にリズムを躍動させます。そして観客もそれに応え、生きたリズムに思い思いに身を委ねながら、歓声や合唱、手拍子を返します。そのボイスパフォーマンスは勿論こと、体全体を用いたエネルギッシュな表現が圧巻。そして彼自身が出すカウントによって各曲に繋げていくのですが、今度は一体なんの曲なんだ、という緊張感も手伝いつつ、バンド演奏が加わったときの開放感を伴いながら小気味よく進んでいきます。


中盤で挿まれたソロコーナーでは、9歳の頃から愛聴していたという南米民謡を弾き語りで、そして民族楽器とおぼしき横笛を用いてジャズ曲の『MILESTONE』が演奏されます。前者のコロコロと転がるようなファルセットと、不思議と馴染みのある郷愁漂うメロディー、そして後者の原曲の形を留めないヤンチャな演奏も素晴らしい。愛情が滲み出るどころかダダ漏れ。失礼な話かもしれませんが、もしその辺りの街で一人で流しでやっていたとしても立ち止まらずにはおれないような魅力があったように思います。アンコールはパーカッション奏者の福和誠司とのデュオによるインスト曲。ここでもヤンチャ魂が炸裂。saigenji主導で奔放にリズムを崩し、それに福和が戸惑いながら付いていくといった塩梅で、そのコミカルなやりとりに会場からは笑いが起き、最後はバンドを加えて再び冒頭の『Breakthrough the Bleu』で大団円を迎えます。これは素人耳にも難曲だと思うのですが、最後まで衰えることはなく彼のノドの強さが窺い知れます。また、技術の巧緻は実のところよくわからず、こと歌に関してはあまりこだわりはないものの、各人の好みの問題とはいえ、正確無比な「うまい」歌い手から感じ取ってしまうような冷えた印象はなく、人間味にあふれた良い意味でのいいかげんさがステキでした。魅力的な歌い手だなあと素直に思った次第です。勿論うまいのですが、自分にとってはこれが一番大切なのです。


三十路を迎えたらしい陽気で気さくな兄貴は終始ごきげんで、こちらも思わず頬がほころんでしまうような人懐っこい表情を一杯に浮かべていました。相当場慣れしているように見受けられましたが、それでも感に堪えぬ様子で「音楽は楽しい!」と連呼していたのが印象に残っています。また、冗談交じりで「ミュージシャンは生活が大変だから応援してね」といったことも述べていました。半ば社交辞令、いえ半ば以上は本音といったところなのでしょうか。双方向によるものだとは承知していながらも、「応援する」やら「支える」やら、さらに言えば「〜してくれる」だの「〜してあげる」だのといった類いの言葉を自分はあまり好まず、誰であれ畏敬の対象である以上、己の意思で好きで来ているんだからそいつは言ってくださるなという思いが常にあって、どうしても少々しんみりしてしまうのですが、それは世間知らずで青臭い言い草なのかもしれません。些細なことを一々気にしていまう自分がどうかしているのでしょう。話が逸れました。スタンディングになると途端に厚かましくなるゆえに、わりと近距離で観ていたせいもあるのでしょうが、男の自分から見ても華のある人で、垢抜けていながらも意図的に少し外したような気取らない佇まいがカッコよく、女性が観客の半分近くを占めていたのもうなずける気がしました。これからも精力的にライブをこなしていくとのことです。惚れたぜ兄貴、素晴らしいライブでした。感謝。