Sits in With the Oscar Pete
時々無性に聴きたくなる音があります。自分にとってはソニー・スティットのサックスの音色がそれに当たります。それぞれキーが異なるはずのアルトとテナー、彼はそのどちらもをいとも簡単に吹きこなすのですが、それはひとえに稀代のテクニシャンであるからでしょう。ただ、精神性云々を差し挟む余地のない異様に能天気な音や、金太郎飴の如き典型的なフレーズの応酬に眉をひそめる方も多いのではないかと思います。かく云う自分もそう思うことがあります。しかし、あっけらかんとベタに徹しる姿勢や、心躍るよな由緒正しきスイング感には抗しがたい魅力があるように感じられます。
聞くところによると彼が参加した作品はレコードにして100枚を超えるそうですが、異なる時期の幾枚かを聴き比べた限りでは、その中でも特にワンホーンにおいてはどれも驚くほどに受ける印象が同一であり、途中でスタイルを変えたとも聞きませんから他も推して知れようものです。仮に現在に至るまでを進化の歴史と呼ぶならば、彼はそれとは無縁でしょう。傍流に追いやられようとも意に介すことすらなかったのではないでしょうか。しかし、多くの作品を残していることや、数々の大物と共演していることから察するに、素人である自分にはさほど変わり映えなく聴こえようとも、プロとして高水準のレベルが保たれていたということであり、実際その超絶な技術は驚嘆すべきことだと思います。変化を続けることが必ずしも是ではありません。もう二度とは現れない、古き良きベタの美学の体現者。微妙な言い回しになってしまいましたが大好きなことに変わりはないのです。
オスカー・ピーターソントリオと共演している本作でもその美学はいかんなく発揮されており、機嫌良く吹き散らすソニー・スティットが痛快です。ところで、コルトレーンの加入以前か脱退以後か忘れましたが、マイルス・デイビスのバンドに彼が招かれたことがあったそうです。が、すぐに脱退。そりゃそうでしょう、どんな悲劇も喜劇に、どんな静寂も喧騒へと瞬時に変えてしまうお人ですから。