中島美嘉@東京国際フォーラムホールA

既に大部分は忘却の彼方ですが、覚えている範囲で感想を書いておきます。


会場の照明が落とされると同時に寓話的な影絵の世界が眼前に広がります。浮遊する悪夢を喰らい次第に肥大化するバク。悪夢の消え失せた虚無の世界に歌姫が天空より静かに降り立ちます。そして、夜空に瞬く光の粒子に抱かれるようにして中島美嘉が現れ、流麗なストリングスの調べに乗せた『STARS』が響き渡ります。


金原千恵子ストリングスとBig Horns Beeをバンドに迎えいれた、再追加公演限定のスペシャルライブ。20人を超えるミュージシャンが一同に会し、ステージ上に所狭しと居並ぶ様は壮観であり、会場からは小さなどよめきが起こります。
けれど物量を誇示するような演奏ではなく、アコースティックコーナーを交えた前回のシンプルなステージの延長上に位置するかのようであり、もう少し前に出てもいいのではないかと思うほどに、一歩引いた地点から粛々と歌い手を支え続けます。
以前に観たシンプルで一点に凝縮した感のある演奏からは、歌声の資質を前面に押し出そうとする意気込みが感じられ、また全体に施された荘厳な演出は劇場的ですらありました。そして今回は、照明演出が抑えられていたことからも窺えるように、管弦楽器と中島美嘉の共演を中心に据える意図が感じられました。セットリストにも微調整が加えられていて、ツアースタッフの並々ならぬ意気込みを感じます。いずれも甲乙つけがたく、それぞれに良さのあるステージだったと思います。


(つづき)
世界に没入した瞬間に会場の空気を一変させうる、叙情的でありながらも決して感情に溺れることのない彼女の歌声は不変でした。もはやトレードマークになった(らしい)前傾姿勢で髪を振り乱しながら一心に歌う様は、時に鬼気迫るものを感じさせます。うめくようにして自己を解き放つ際に匂いたつ「女」の香。それは、包み込むような母性だけではなく、辺り構わず収奪せんとする猛々しい母性をも彷彿させます。いみじくも多くの女性から支持を得ていることに納得できました。反面、緊張で手を振るわせ、自らの拙いMCに照れ笑いを浮かべる彼女は、まるで憑き物が落ちたようであり、どこにでもいる女性でありました。
瞬時に達する伸びのある高音域に比べると中低音域はまだ不安定であり、随所に凄みを感じさせつつも、細かく上下するフレーズでは危なっかしい部分が見受けられます。けれども歌の上手さを誇示するばかりが歌い手ではありません。変態的な旋律を涼しい顔でさらりと歌ってのけるだけが歌の上手さを規定するわけではありません。
不器用な情熱。MCの端々に滲ませる、足らざることを知るゆえの焦燥感。「癒し」という空疎な言葉に収斂しない存在感ある歌声。荒削りである今だからこそ成立しうる絶対的な歌の力こそが、彼女が歌い手であることの証明であるように思えるのです。


・・・要するに素晴らしいライブだったということです。
ちっともまとまらないので、自分でも何を言っているのかわかりませんが。