音楽に真摯に向かいあった少女の姿がそこにありました。いえ、恋することを知った彼女は、既に大人の女性へと変貌を遂げているのかもしれません。抗いようもなく彼女の歌声に惹き込まれました。一段と増した表現力に驚きを隠せませんでした。


いろいろと意見の相違はあるようですが、僕は歌手である時の彼女が一番好きですし、できることならずっと見ていたいと思っています。けれど、豪華な演奏陣による生演奏の緊張感からか、どうしても歌のコントロールに気をとられて、不特定多数の視聴者に歌を届けるところまでは気が回っていなかったように思います。また、声量の無さや発声方法、妙な歌い癖やアクセントの位置などに多少の違和感を覚えたことも事実です。
その場の雰囲気や選曲の影響とも言えるでしょうが、そこだけに回収されてしまうことは彼女にとっても不本意なものではないでしょうか。その歌い癖自体は、将来的に彼女の味に繋がっていくものですから一概に否定するつもりはありません。しかし、いずれにしても長く続けていくためには、しっかりとしたヴォイストレーニングを受ける必要があるでしょう。ある程度の基礎を知った上で、どの部分を伸ばし、どの部分を矯正するかを彼女自身で選択してほしいと思うのです。
まだ10年そこそこ生きていただけの少女に求めるのは少し酷なのかもしれません。けれども、臆することなく自らを「歌手」だと言い放った彼女なのですから、既に遥か地平を臨み、そして未来の姿をその目に捉えていることでしょう。


依然として彼女が過渡期にあることは間違いないでしょう。決して楽しいことばかりではなく、日々ままならぬことも多いことと推察します。けれど、彼女の歌手生活の中で、振り返ってみると最も重要な季節となるに違いありません。
長いトンネルを抜けた先に訪れるであろう穏やかな輝きに満ちた世界を共に眺めてみたい、そう願うばかりです。