吉祥寺のMANDA-LA2へ鬼木雄二のライブ(ゲスト:鈴木祥子)を観に行ってきました。いつもどおり当日券。


・第一部(鬼木雄二)
なぜかタワレコですら入荷されていませんでしたので、公式らしきサイトで公開されている曲以外はひとつも知りません、わはは。さて登場したのはジーンズに無地の白Tシャツというナイスガイでした。オリジナル曲が全て英詩(たぶん)だったこともありますが、乏しい何ちゃって知識から捻り出しますと、ジェイムス・テイラー辺りを彷彿させる、シンプルで美しいメロディを温もりのある声で歌い上げるような趣き。どこか物憂げなところも共通点でしょうか。ギターの弾き語りで幕を開け、徐々にバンドメンバーが登場します。当初こそベースの音が大きすぎる気もしたのですが、人数が増えるにつれて徐々に馴染みはじめ、緩やかな稜線を描くがごときメロディと歌声を盛り上げていきます。全員で5人、おそらく達者な演奏でした。ROVOでお馴染みの勝井祐二さんのエレクトリックバイオリンは、強烈な存在感をもった楽器ゆえに少人数の場合だと全体を圧しかねないと素人ながらに思うのですが、さすが歴戦の猛者と申しましょうか、エフェクター(?)を駆使しながら絶妙に絡みつきます。さかなの元メンバーだった気がするPOP鈴木さんの、手数は控えめなのに要所でしっかり盛り上げるツボを押さえたドラムもカッコいい。それでいて思慮深げで意思的な歌声がしっかりと映えるのですから素晴らしい。ロックサウンドもありつつ、殊にバイオリンとのデュオが印象的でした。


・第二部(鈴木祥子)
鬼木さんのギターを拝借して、鈴木さんが『舟』を弾き語りはじめます。もともと「彼は死んだ/ここで殺した/私の手で」というおどろおどろしい歌詞を、なぜかカントリー風のアレンジに乗せて牧歌的に語る曲だけあって、苦笑いの交じった小さなどよめきが客席から起こっていました。また、ジョニ・ミッチェルのDVDを観賞して以来彼女の生き様に傾倒しているらしく、リフレインが不気味なオリジナル曲の『三月のせい』に続いて、つとに知られる『BLUE』のカバーを自身のピアノと共に。鬼木さんが讃えていたように、あの奇特なメロディをこともなげに歌い上げる様は圧巻でありました。そして、同じくジョニ・ミッチェルの『My Old Man』と、オリジナル曲の『Blonde』は勝井さんのバイオリンと共に紡ぎます。息の合った演奏が素晴らしい。女の情念、ブルースがテーマとか何とかと述べていましたが、そのわりにはカラカラと気さくに、かつ饒舌に話してました。歌われる曲のことごとくはテーマどおり重いけれど。
それにしても先日足を運んだ畠山美由紀さんのライブでも感じたことですが、いい歌い手とは一つのフレーズだけで場の空気感を変えてしまうものなのでしょうか。もちろん技術あってのことなれど、それだけでは図れない言葉には尽くせない何かがあって、それこそ理屈抜きに。どちらかと言うと歌声は低いほうでしょう。地声とファルセットの中間くらい(?)に移行する際に垣間見られる微かな逡巡と、次の瞬間に発せられるひらりと返るような高音との対比が艶っぽくてグッと引き込まれます。100人強しか入らない狭い会場ゆえに感じられる息遣いと、どこか危うい歌声。彼女のライブ盤を聴いて遅まきながらカッコいいと思った自分ではありますが、それでも想像していたよりもずっと生っぽく、実際のライブの方が遥かにいいですね。いつか機会があれば、できるならCDと同じメンツで、ドン引き必至の『LOVE/IDENTIFIED』なぞも聴いてみたい気がします。


・第三部(全員で)
ゲスト出演と聞いていましたので5曲くらい聴ければ御の字かと思っていたのですが、7曲ほど歌った二部以降も出ずっぱりで結局10曲以上歌っていました。また、歌・ピアノ・ギター・ドラム・タンバリンの他に、隙あらば何やかしらと天然っぽく喋ってましたのでメインより目立つ場面もあったように思います。ゲストの方が目立ってどうするのか。ここで披露された彼女のドラムは、正直なところ個人的に微妙だと思わないでもないのですが、バッキングも含めてガツンとした強めのピアノのタッチは本当に魅力的だと思います。技術的なことは皆目わからないけれども、歌い手自身が弾いていることもあってか独特の一体感があったような気がします。いや知らんけど。ここでは鬼木さんが気に入っているらしい『Happy Someday』、そして『忘却』や『ラジオのように』、CSN&Yの『Woodstock』などのカバー曲をロックなバンドサウンドで披露。生々しくも乾いたサウンドが心地よく、余裕綽々な演奏がカッコいい。


約3時間のライブ、盛りだくさんで楽しめました。いいもん観た。後日、鬼木さんとTICAが共演するとのことです。TICAは好きですし鬼木さんも気に入りましたので、こちらも足を運ぼうかと画策中。今回はじめて鈴木さんのライブを観たのですが、ワンマンもいつか。