「ベツニ・ナンモ・クレズマー」に関して調べたたところ、彼らは主にユダヤ音楽を演奏していたのだと判明いたしました。当たらずも遠からずも、やはりハズレ。知らねえ。さて、思ったとおり歌い手も凄腕パフォーマーだったようです。その巻上公一の経歴ですが、公式ホームページを参照してもマニアックすぎてさっぱりわかりません。そもそも数ある肩書きのひとつの「超歌唱家」とは何ぞや。それはともかく、知らなかったとはいえ、結構アングラなバンドを観てしまったのではあるめえか。メンバーが揃わないので年に1回しかライブをしないそうですし。まぁ自分が楽しめれば何でもいいけどさ。


乗りかかった船だと思い、「ベツニ・ナンモ・クレズマー」のもうひとりの専属歌手である東京ナミイBANDも観てきました。こちらは「エキセントリック・オペラ」というバンドの、普段はサンフランシスコ在住している歌手とのこと。鬼怒無月、近藤達郎、早川岳晴、田中栄二による轟音アヴァンギャルドロックに、東京ナミイのドスの利いた歌声。禍々しいシャウト、美しいファルセット、ゴスロリ風のオペラなど、実に変幻自在で上手い。が、曲自体にはさほど惹かれず。イントロが『移民の歌』そのまんまで、それをメタリカ風に演奏してみたような最後の曲はカッコよかったのですが。はて、なんでだろな。


で、もうひとつの目的が前座でゲスト出演した佳村萌。偶然レンタルした彼女のアルバムがめっぽう良かったのです。鬼怒無月勝井祐二、それと彼女自身のピアノというシンプルな編成。エレクトロニカ・フォークとでも言うのでしょうか、何とも表しがたい醒めきった美しさを奥底に湛えた作品です。ザ・ハイロウズのカバーらしい『不死身の花』での抑制した歌声は、それがゆえに寂寞とした風景をリアルに想起させ、同時にある種の切迫感を有しているように思えます。これを「癒し」なんて呼んじゃいけないぜ。
今回はチェロ奏者の坂本弘道とのデュオでした。緩慢な動作で訥々と鳴らされるピアノと、時に情熱的に奏でられるチェロの対比が印象に残ります。そこにあらかじめ用意されていたと思しき無機質でチープな打ち込みや、エフェクタでリアルタイムに処理したループ音が必要に応じて加えられます。これまた何とも表しがたい、彼女の凛として透き通った声が絶品。鬼怒がMCで、佳村を妖精、東京ナミイを小悪魔に例えて観客の笑いを誘っていましたが、ポエトリー・リーディングや、わらべ歌のようなメロディーが紡がれていく、というよりは、消え入りそうな声でつぶやかれていく様子は、まさにそんな趣きだったように思います。蛇足ながら念のために申しておきます。萌えません。