先日、梅津和時が率いる「ベツニ・ナンモ・クレズマー」のライブを吉祥寺で観てきました。その舐めたバンド名から推察されるとおり、洒落っ気に満ちた演奏が繰り広げられます。大熊ワタル、関島岳郎、向島ゆり子、佐野康夫など演奏者多数(たぶん15人)。


狭い会場の通路を縫うようにして、メンバーが楽器を演奏しながら練り歩き、ライブの幕が上がります。各曲の尺はそれほど長くはなく、バイオリン、チェロ、クラリネット、サックス、トランペット、チューバ、マリンバなど、各々の楽器が小気味よくフューチャーされていきます。失礼なことにオリジナル曲を全く知らないので何とも言えないのですが、ロシアや中近東で鳴っていそうな趣きの、普段あまり耳にしないであろう類いの音楽だったような気がします。「オリエンタル」と聞いて、すぐさま想起されるそれとも少し違う。MCにてロシアツアーの話題が出ていたので、しめたとばかりに隣に座っていた見知らぬ女性に「これはロシアの音楽なのでしょうか?」と休憩時間に無意味な質問をしたところ、たいそう怪訝な顔で「そう聴こえますか?」と逆に問いただされてしまいましたので、全く違うのかもしれません。不躾なことをしてしまい、申し訳ありませんでした。そういえば、肩の力の抜け方も含めてムーンライダーズに似ているような気がしないでもないけれど、それはともかく、ズンチャ・ズンチャ、という2ビートのような軽快なリズムが印象的でした。そのせいなのか何なのか、総じて明るく、会場全体を使用したパフォーマンスはマーチングバンドをも思わせます。黒ハット帽をかぶり、いかにも座長然とした梅津和時の佇まいや飄々としたMCも、もしかするとその類いなのかもしれません。まあ、なんでもいいや。


圧巻は、ドラムと各金管楽器のみによるソロの応酬。それぞれ顔色を覗いながら自身のソロをドラムソロの中に捻じ込んでいく様子がスリリングでした。佐野康夫がいることは知らなかったのですが、やはり彼の演奏はカッコいい。あと、さほどメジャーでないはずのバス・クラリネットが3人揃ってデロデロやっている様は壮観でした。
それ以上に圧巻だったのは、巻上公一と東京ナミイの歌声(誰か知らない)。どこから出しとんねん、と言いたくなる変幻自在な声色、スキャットを含めた歌声は、まさに楽器のごとし。ポップスの範疇からは逸脱するのかもしれませんが、おそらく超絶に上手い。また、近くで目にしたせいもあるのでしょうが、観客煽りを含めた仕草や表情の一々がとても豊かで、思わず引き込まれてしまいました。笑いを取りにきたと思しき、アヒルの鳴き声を忠実に模した凄まじくイロモノな歌、そして胡散臭いことこの上ない『魔法使いサリー』も、呆れるようにして見入ってしまいました。いい歌い手とは、同時にいい役者であるのかもしれません。そんでもって、アンコール曲は『ドナドナ』。最後に『ドナドナ』って。売られていく仔牛はメタファーにすぎず云々、という話はさておき、この気が滅入りそうな当曲がなぜか圧倒的に騒々しく演奏され、めでたく幕が下ろされたのでありました。金のことを言うのもなんですが、これで2700円とは恐るべし。十分に堪能いたしました。機会があれば、今度はスタンディングで観てみたいものです。