the Miceteeth 「from RAINBOW TOWN tour」 @渋谷AX


スカの枠組みに収まることなく伸張を続けているという触れ込みで人気急上昇中らしい、大阪在住の10人編成の大所帯バンドであるザ・マイスティース。細やかだけれど適度にルーズで芳醇な揺らぎのある演奏と、そこにうっすらと滲む或る種のアマチュアリズムが特色でしょうか。主にギターとオルガンが奏でる裏打ちの跳ねたビートが思わず頬が緩んでしまうほどに心地よく、どこか牧歌的で郷愁を誘ってやまないまろやかなホーン隊の音色が、時に騒々しく、甘く、あるいは気怠く辺り一体を染め上げます。初っ端に演奏された 『Rainbow Town』 から既にメロメロ。ハンドクラップが泣かせます。うっとりと耳を傾けたい人、気の赴くままに踊りたい人の双方の要望を満たす、硬軟交えた選曲もいい。また、1回目のアンコールではサックスの田淵公人を中心としたカルテット編成の渋い演奏が、2回目では何故かトロンボーンの樋口嘉一の飄々とした独り喋りが余興がてらにあり、サービス精神も旺盛で抜かりなし。ソロ回しでの、デキシーランド・ジャズ風のゆったりした各自の演奏も見所のひとつ。アンサンブルでは見られなかった、ここぞとばかりに暴れる跳ねまくったギターやオルガンのソロがかっこいい。
肩の力が抜けた演奏はもちろんのことですが、ちょっぴり切なくて鼻歌で口ずさめそうな小粋なメロディーが根幹にあるのですから悪かろうはずがない。のどかで情緒豊かな次松大介の歌こそがこのバンドの真骨頂。何とも人の好さそうな味のある魅力的な歌声が聴く者の心に問答無用に分け入って胸を打ちます。曲調もさることながら、間口の広いポップスになりえているのは彼の存在ゆえでしょう。一方で、その次松のMCは至上まれに見るグダグダさ。元々なのか緊張していたのかは不明なれど、噛み倒した末に何がなんだかわからず 「ありがとう」 と連呼するも、それさえロクに発声できず一方通行のままズブズブと泥沼にはまっていきます。言ってることがわからんとのツッコミを浴びる様子にニヤニヤするのもまた一興でしょう。あらかじめ準備していた関連グッズを観客ひしめくフロアに丸ごとばらまき、自身のレコードの幾枚かをフリスビーのように飛ばす、太っ腹というかヤケクソ気味な場面もあって笑えました。


横溢するピースフルな雰囲気、これをして多幸感に満ちていると言うのかもしれません。束の間であるからこそきらめく刹那の幸福。隣人と目を合わせ微笑みを交わしながら生を肯定できる小さな幸福。そんな陳腐な言葉を脳裏に浮かべつつ、時が経つのを忘れてリズムに身を委ね続けました。さすがに大げさか。スカ、ロックステディ、レゲエ、ラヴァーズロックの何たるかを知らないので、その道に明るい人がどう捉えるかはわかりませんが、大所帯バンドならではの人間味に溢れた、ひたすらに楽しく素晴らしいライブだったと単純にそう思います。このクセになるユルさは真夏の野外で映えそうですね。また足を運びます。感謝。