JACK・JOHNSON@渋谷AX

ジャック・ジョンソンのライブを観に行ってきました。
かつてアルバムが全米ナンバー1になったらしく日本でも人気急上昇中であるとはいえど、一部の愛好家に親しまれる類いの音楽だろうと勝手に思い込んでいたのですが、予想外に観客が多く、いざ始まってみると会場はぎゅうぎゅう詰めで身動きがとれず。一方、いかにもサーファー然とした人が多かったのは予想通りでした。そのためか落ち着きがありながらも、会場全体がやんちゃで健康的な明るさに満ちていたように思います。
一緒に観に行った友人が言うには、サーファーだけでなくボーダーの間でも人気があるらしく、教則ビデオなどでも彼の音楽が頻繁に用いられているようで、一部ではスピリチュアル系と呼ばれるジャンルが確立しつつあるそうです。


盟友であるドノバンの演奏で幕を開けます。
スネアの乾いた音を中心に据え手数を抑えたドラム、芳醇な空間に淡く色を添えるベースとキーボード、波の上にたゆたうギターの音色。ムダを排した楽器の音色が絶妙に絡みあい、小さく波立つ海上に涼しげな風を吹き込みます。けれど、そこに過剰な作為が入り込む余地はありません。為すべきことを為すからこそ成立する粋な大人の余裕が感じられました。また、ジャムバンドとして括られることの多い彼らですが、最後の曲でのグルービーな演奏の内にその片鱗を覗き見たような気がしました。


数分の間をおいて、ジャック・ジョンソンが現れます。
こちらはドラム、ギター、ベースの、よりシンプルな編成。ハワイ出身でサーファーであるジャック・ジョンソン、そしてドノバンにも共通することですが、彼らが奏でるのは一般に想起されるハワイアンミュージックとは少し趣が異なります。フォーク、ブルース、レゲエなどの要素を含む肩肘張らないアコースティックな演奏。そして、身体をするりと透過して中空に飛散する、かすかに憂いを帯びた極上のメロディ。一見すると鼻歌でも歌っているようで何でもなく映るのですが、その実、総じて完成度は高く、CD音源とほぼ変わりのない演奏に驚きました。それは彼らの流儀であり矜持でもあるのでしょう。また、瑞々しさと枯淡が違和感なく同居する歌声と、想いを投影しすぎない彼のスタイルがそうさせるのか、聴いていてひたすらに心地よくなります。リズムに身を委ねるもよし、ただ立ち尽くすもよし。皆が思い思いに耳を傾けます。
終盤ではキーボードを加えた上でドノバンと共演し、そこではウクレレを披露していました。そしてアンコール後は、ひとりで4曲ほど弾き語ります。どの楽曲も弾き語ることを前提として作曲されているのでしょう、バンドによる演奏よりもむしろメロディーの良さが一層際立つように感じられました。


多くの場合、ジャック・ジョンソンの音楽は「ユルい」と評されます。「ユルい」と一口に言ってもその態様は様々であり、時に褒め言葉としては機能しないこともあります。それでも、一言でいうならば彼らはやはり「ユルい」のです。陽光を浴びながら草原に寝そべって聴きたくなるような心地よい「ユルさ」とでもいいましょうか。借り物ではない確かな「ユルさ」があるように思えました。
ただ、欲を言えばもう少しメリハリがほしかったところです。全体的に曲のテンポに変化がなく、終始似たようなリズムパターンが続くので、それが良さであるとはいえ、どうしても抑揚に欠ける面がありました。装飾に満ちた音に耳慣れた自分には、ややシンプルすぎるようにも思えたのです。なので、元来の良さを減じない程度に要所で別楽器を組み込むか、一部でセッション形式の演奏を差し挟んでもよかったような気がします。いずれはその方向に舵を取るのではないでしょうか。


彼らの音楽が好きで好きでたまらない人達が集まったライブだったように思います。普段見慣れぬ人達がわんさかいる光景が新鮮に映ったこともあるのですが、その思いは一層強くなりました。とはいえ、そうした人達ばかりではなく、当然自分のようなヤジウマも少なからず混ざっているわけです。それは、楽曲の乾いた叙情性から導かれる普遍的な響きが僕らを惹きつけて止まないからなのでしょう。
野外で聴けば随分と印象が違ってくるのでしょう。機会があれば足を運んでみようと思っています。