MAN DRIVE TRANCE SPECIAL VOL2@日比谷野外音楽堂

「人力トランス」の饗宴。その普段耳慣れない用語と、僕の大好きなドラマー・芳垣安洋につられ、それ以外の予備知識を仕入れぬままに足を運びました。あいにく小雨の混じる天候でしたが、ステージが野外にあるため、フロアでの演奏で感じがちな強迫観念めいた閉塞感は一切なく、各々がそれぞれの楽しみ方を享受できる開放的な空間がそこには広がっていました。


エマーソン北村と称する飄々としたおっさんの一人舞台から幕を開けます。
一時的にバイオリン奏者が加わりはするものの、基本的にはチャカポコとしたリズムボックスのゆるいビートに乗せて、レイドバックしたかのようなゆるいオルガン独奏が続きます。次は1930年代の曲だとか19世紀の曲だとか紹介していましたが、観客が知ろうが知るまいがおかまいなしであり、当人はいたってご機嫌でした。その微笑ましい空気に、一緒に観に行った友人と顔を見合わせて笑ってしまいました。寡聞にしてどこの誰だか存じ上げませんが、何ともステキなおっさんでした。


▼2番手はBuffalo Daughter
揃って黒づくめの衣装をまとった4人組でありまして、こちらは生ドラムが主体となってリズムを織り成します。シンプルな8ビートを効果的に挿入しながら、やがて来る高揚のときを探っているようでした。
絶妙のタイミングで奏でられるPAによる効果音や、コーラスなどが有機的に絡みあい、やがてステージと観客席の間に横たわる境界線を溶かしはじめます。その過程で生まれるミニマルかつ芳醇なグルーブは、少人数でなしうる最高峰のものだったに違いありません。Buffalo Daughterのさらなる飛躍を予感させる素晴らしい演奏でした。


▼3番手はGOMA
彼の演奏を目当てに足を運んでいる方も多いようで、各所でにわかに盛り上がりを見せはじめます。その筋の人たちにとっては有名だったのでしょう。けれど、生ドラムによって生み出される高揚を経たばかりでしたので、僕にとって彼のDJプレイは物足りないこと甚だしく、よって休憩タイムとあいなりました。


▼本日のメインアクトであるROVOの登場に、観客が総立ちになって彼らを迎えます。
日暮れに伴って次第に影を落とし始める会場。ステージの外壁に映し出される光の胞子群。意匠を凝らした照明の演出に、観客席からは幾度も感嘆の声が挙がっていました。光源である機材を懸命に揺り動かし、光を明滅させ続けるスタッフの姿も印象に残っています。


冷厳な響きの中にありったけの熱情を注ぎ込んだ勝井氏の流麗なバイオリン。フレーズ自体はシンプルながらも、印象的なギターの音色で動と静を自在に行き交う山本氏。ベースの原田氏は、騒がしくうごめくリズムの底辺を重厚な音色で支え続けます。また、音宇宙を外側から創造し、辺りを浮遊するシンセの音色。
特に圧巻だったのはドラム。ツインドラムの生み出す昂揚感は、想像以上に素晴らしいものでした。芳垣氏の特徴のひとつでもある、パーカッション的なドラミングは壮絶の一言。また、一翼を担う岡部氏のドラミングも半端なものではなく、まさしく化け物同士の饗宴でありました。


それらが複雑に絡み合いながらも、そこから生まれ出ずるのは、単一の、けれど途方もなく大きなグルーブ。それはただ直線的で二面的なものではありません。何かに導かれるようにして集約され、会場全体を四方八方から覆い尽くすような立体的なものでした。やがて、宇宙を模した演出と有機的に融合しながら、広大な音世界を構築していきます。洪水のように奔流する音と、ステージ上に忽然と浮かび上がる満月の取り合わせの妙。架空の光の下で踊り狂う観客とのコントラスト。その全てが一点に収束していく光景は感動的でした。螺旋階段を昇りつめるように、たっぷり時間をかけた末に訪れる圧倒的な昂揚感は、言葉では言い表せないものがありました。


心地よい疲れに虚脱した体を引きずるようにして会場を後にします。冷気を帯びた風が踊り続けて火照った体を包みます。しかし、体の奥深くに灯った興奮が冷めることはありませんでした。目に焼き付けた壮絶なライブについて、酒を酌み交わしながら友人と語り続け、ROVOとの再会を固く誓ったのでありました。最高です。