standards~土岐麻子ジャズを歌う~

standards~土岐麻子ジャズを歌う~

窓辺から差し込む柔らかな陽光を受け、微かにざわめきはじめた日常に誘われるようにして街へ出る。行き交う人々の息遣いにそっと耳を澄ましながら見慣れた風景に溶け込んでいく。これまで気にも留めなかった些細なことが不意に意味を持ちはじめ、ささやかな変化が愛しく感じられる。これから出会う友人の表情を思い浮かべ自然と足取りが軽くなる。


解散したCymbalsのヴォーカリスト土岐麻子のソロ作品。ジャズのスタンダードとされる楽曲のほかに、ボサノバ風にアレンジされた『September』や『Everybody Wants To Rule The World』などが収録されていて、彼女のルーツを垣間見たような気にさせる。
実父である土岐英史をはじめ、大坂昌彦納浩一、大石学などの豪華なメンバーによる肩肘張らない演奏がさりげなく楽曲に彩りを与える。風薫る草原に立つシンガーソングライター然とした佇まい。自然と耳元に寄り添う彼女の温かな歌声が周囲を淡く照らす。
個人的には、かつて慈しんだ者への惜別を歌う『The Good Life』が好み。過ぎ去りし日々を優しく包み込む叙情的なサックスや訥々としたピアノの音色、寄せては返す包み込むようなブラシの音色。癒えることのない想い。最後に歌われる「Bye Bye」では、静かではあるが確かな決意が滲む。その凛とした彼女の歌声に抗いようもなく惹きこまれる。